業界で唯一「計測技術」を持つ半導体製造装置メーカー

 まず、私がお伝えしたいのは、東京精密グループのコア技術は、計測技術であるということです。1949年の創業後、当社の事業機会を拡大したのは精密測定機器であり、ここで培った計測技術が、市場が拡大する半導体製造装置にも活かされています。
 従って、東京精密グループは、業界で唯一「計測技術」を持つ半導体製造装置メーカーであると強く認識しています。かつては2つの事業を有することによる収益安定性を重要視していましたが、半導体デバイスの技術進化が限界を迎えつつある中、計測の技術を半導体製造装置に展開することで、より高精度の検査や加工が可能になり、当社独自の強みとして、世界No.1のモノづくりに活かされる状況になっています。

激化する市場環境下で技術的な優位性を維持

 半導体市場は急速な高性能化と個数成長が続いており、これまでは前工程技術の進歩による微細化やウェーハの大口径化によりニーズに応えてきました。現在はこれらが技術的な限界に近づいており、後工程技術で実現可能な三次元パッケージなどの新たなソリューションが模索されています。東京精密グループが提供する製品群は後工程向けが多く、こうした技術革新に大いに貢献できると思います。
 また、現在は国策として半導体の開発や生産の強化に取り組む国が増えています。この動きは、東京精密グループにとって市場拡大機会になる一方で、新たな競争を生むリスクを伴います。東京精密グループは研究開発費を投じて技術的な優位性を維持するとともに、サービス体制の整備や、生産キャパシティの拡張によりお客さまへのレスポンスを高めることで、競争の優位性を維持したいと考えています。

さまざまなモノづくりへ展開する精密測定機器

 高品質なモノづくりに必要不可欠な精密測定機器において、東京精密グループは高精度部品の寸法や形状の測定需要、特にICE(内燃機関)自動車のエンジンなどの需要を獲得し、安定成長を維持してきました。また省エネ、燃費の効率化、自動車プラットフォームの統一化などにより、新たな需要を創出してきました。
 新型コロナウイルス感染症拡大による一時的な需要の停滞はあったものの、モノづくり市場自体は安定しているうえ、脱炭素化に向けたNEVの需要や、ロボット・医療・半導体業界への販売拡大を進め、その業容は緩やかに拡大しています。さらに、バッテリーなどの二次電池試験システムのビジネスが軌道に乗り始め、事業機会は確実に増えています。

事業機会を取り込み、成長業界への取り組みを強化

 東京精密グループは、3か年の中期経営計画において、最終年度2024年度の定量目標をROE15%以上、連結売上高1,700億円、連結営業利益375億円としています。
 当社グループでは5Gによる通信技術の進歩に伴い、バーチャルとリアルの融合を意味する「Society 5.0」の世界がさらに広がると考えており、半導体市場は金額・数量の両面で爆発的に成長すると想定しています。また精密測定機器関連市場は、ICE自動車市場が減少に転じる一方で、NEVや航空機など新たな測定ニーズが拡大すると想定しています。
 こうしたなか、半導体製造装置では半導体デバイスや電子部品の高機能・複雑化に伴う検査装置(プロービングマシン)や、デバイスの個数成長に伴う加工装置(ダイシングマシン、ポリッシュ・グラインダ)の需要拡大、さらにカーボンニュートラルに向けたSiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)などの新たな化合物半導体に関係した加工プロセスの拡大が事業機会になると考えています。そのため、お客さまのニーズにマッチした開発を進めるほか、加工装置で新製品を展開し、業容拡大を図ります。
 精密測定機器では、カーボンニュートラルが急速に進み、NEV、再生可能エネルギー市場が拡大することで、新たな測定需要が喚起されるほか、労働人口の減少に対応したモノづくりの自動化需要、さらに半導体に関連した市場が事業機会になると考えています。そのため、成長業界への取り組みを強化するほか、充放電試験ビジネス、自動化ソリューションへの取り組みを進めます。

半導体製造装置と精密測定機器のシナジーによる業容拡大

 半導体製造装置と精密測定機器の融合によって、当社独自の新たな事業機会を生み出しています。半導体製造装置に、当社の精密測定機器を組み込むことで、今までにないソリューションを提供し、付加価値を高めるほか、精密測定機器そのものを半導体関連業界へ展開して対象市場を拡大することが可能です。
 当社では、これらのシナジーにより、2025年に130億円程度の売上拡大を見込んでいます。

2020年以降を振り返って

 2018年度から2021年度、当社は、4か年の中期経営目標(ROE10%、営業利益220億円、前提売上高1,100億円)に向かって、事業を進めていました。当時の事業の前提は、半導体製造装置事業では5Gの進展や中国需要、精密測定機器事業では自動車のプラットフォーム革新などでしたが、脱炭素の流れを受けたEVの急拡大に加え、新型コロナウイルス感染症による巣籠り需要や新しい働き方(WFH:Working From Home)が急激に進展したことで、半導体デバイスと半導体製造装置の需要が大きく伸長しました。一方で、生産に必要な部材の調達が困難になるなどの大きな変化が起きましたが、これによって私は、当社の事業と当社の関連業界が世界の人々の生活に直結するものになったこと、そして、顧客が必要なときに、必要な製品を提供することが東京精密グループの使命であることをあらためて痛感しました。そのため現中期経営計画では、お客さまへの責任を果たすための生産キャパシティの拡張も進めています。
 地球の温暖化が急速に進む中、当社としても課題を解決する一員であるべきと強く認識し、TCFDの提言に賛同をしたうえで、脱炭素に向けたオペレーションと脱炭素に貢献する製品の提供を現中期経営計画に織り込みました。

2022年度の業績について

 2022年度は、新型コロナウイルス感染症の直接的な影響や各国の制限は緩和の方向に向かったものの、サプライチェーンの混乱などからインフレが進行し、これを抑制するための政策として世界的に相次いで金融引き締めが行われ、為替が大きく変動しました。さらにウクライナ情勢を契機として資源やエネルギー価格の上昇も起こり、総じて先行き不透明な経済環境が続きました。
 このような状況下、半導体製造装置部門では、それまでに受注を積み上げてきた案件について、生産キャパシティを拡大させ、要求納期通りの出荷を進めるよう尽力しました。さらに、カーボンニュートラルに向けた世界的なパワー半導体に関する需要も増加し、これに応えました。精密測定機器部門では、手控えられてきた設備投資の再開により市場自体に回復が見られたほか、充放電試験システムやオートメーションへの対応など、対象市場の多角化を進めました。
 これらの取り組みにより、2022年度は、3か年連続の増収増益、2か年連続の既往ピーク業績の更新を果たすことができました。なお、忙しい環境の中、お客さまの声を形にしていただいた従業員の皆さんの労をねぎらうべく、特別賞与の支給も行いました。

サクセッションプランは経営の優先課題

 時が経つのは早いもので、私も2022年に還暦を迎えました。現在、代表取締役会長CEOの吉田、代表取締役副社長CFOの川村、ならびにCOOの私の3名が経営において最も重要な責任を負う立場でありますが、この体制が永遠に続くわけではありません。数年内には、次の社長にバトンタッチをする決断も必要かもしれません。
 東京精密が創業以来培ってきた強みと戦略を引き継ぎ、これを完遂し、さらに持続可能な会社を創っていける後継者を育成する必要があり、これはCOOである私にとって最も重要なものとなっています。
 次の後継者は、現在の関係の中だけで発掘するつもりはありません。国籍、ジェンダーを問わず、良い人財を発掘して経験を積ませ、経営を引き継がせていきたいと考えています。

営業として 学んだこと。お客さまの声を形に

 私は、東京精密に新卒で入社後、一貫して半導体製造装置部門の営業畑で過ごしてきました。現在と同様、半導体デバイスが急速に進化していく中、デバイスメーカーと製造装置メーカーは共存共栄の関係にありました。
 その中で学んだのは、お客さまが本当に求めているものは何かを把握すること、すなわち傾聴することです。日々、お客さまの声を傾聴し、そこで得られた「求めるもの」を装置として実現させていく。これが私たちの使命でした。営業職に就いていた期間も、この正の連鎖を通じて、世界初・日本初の装置をお客さまに納入することができ、その結果、求めるものが実現できました。こういった人と人とのつながり、特に 課題を解決するためのつながりは、社長になった今でも重要だと思っていますし、従業員にも日々伝えているつもりです。

世界No.1のモノづくりへ。エンジニアの思いを形に

 東京精密の財産は「人」だと思っており、経験豊富なエンジニアやそれを支える人員が、当社グループの成長の源泉であると考えています。
 当社には、エンジニアがお客さまの悩みに正面から向き合い、知恵と経験に基づき、追究することで、技術革新を成し遂げるという企業文化が醸成されているのです。
 私はエンジニアに対して、常に「自分なりの考えを製品開発に反映してほしい」と伝えていますし、会社としてアイデアを具体化するための開発予算執行の仕組みも構築しています。これからも「人」という財産を大事にし、「お客さまと共に世界No.1のモノづくりを実現する」という思いを大事にしていきます。