
エンジン部品の製造で培った高い技術力を活かし、「NITTAN Challenge 10」による新規事業の開拓に取り組まれている株式会社NITTAN様に、新製品の開発段階と量産工程のそれぞれにおける東京精密製品の使用感、そして今後に向けた期待について、お話を伺いました。
株式会社NITTANについて

事業内容について教えてください。
NITTANの原点は、1924年に創業した恩加島鉄工所にあります。ここで日本初となるエンジンバルブの量産が行われたことが、当社の歴史の始まりです。その後、1943年には企業の合併により日本鍛工株式会社秦野工場となり、航空機用エンジンバルブの製造を開始しました。
現在、国内に2つ、海外に14の生産拠点を構え、台湾やアメリカをはじめとする各国で合弁会社を設立。世界規模でエンジンバルブの供給を行っています。
そして2022年4月、社名を「日鍛バルブ」から「株式会社NITTAN」へと変更しました。この変更には、バルブ製造にとどまらず、新たな事業領域への展開を図るという意思が込められています。
とはいえ、現時点では連結売上高の約84%が小型エンジンバルブ事業であり、船舶用部品を含めるとおよそ91%がバルブ関連事業となっており、NITTANの中核をなしています。
御社の強みを教えてください。
長年にわたりエンジンバルブの製造に携わってきたNITTANは、鍛造技術や加工精度において高い自信を持っています。他社では対応が難しいとされる加工しづらい材質であっても、NITTANではそれを日常的に扱い、安定して高い精度を実現しています。これこそが、当社の大きな強みであると考えています。
今後の方針

御社の今後の展望について教えてください。
2019年より、当社では中長期ビジョンとして「NITTAN Challenge 10 (略称:NC10)」を掲げ、その実現に向けた取り組みを進めています。2030年までに売上高1,000億円超の達成を目標に、これまで培ってきたコア技術をもとに新たな分野への展開を図っています。
NC10は3つの領域(VISION)で校正されています。
VISION Iでは、エンジンバルブや歯車、ラッシュアジャスターといった既存分野における高付加価値を推進。
VISION IIでは、EV(電気自動車)をはじめとした電動化社会に対応した新たな製品開発を進めています。
さらにVISION Xでは、ゴルフ用パターやコースターといった、まったく新しい分野における製品開発にも取り組んでいます。

真円度・円筒形状測定機「RONDCOM NEX Rs α」(右)
こうした多角的な事業展開に伴い、品質保証部門の役割も大きく変化しつつあります。これまでは主にエンジンバルブの品質保証に特化してきましたが、現在では多種多様な新製品に対応する必要があり、業務内容はより広範かつ柔軟なものへと移行しています。
今後は、製品開発の初期段階から品質保証が関与し、測定方法の設計や適切な測定機器の選定といった工程にも深く関わっていくことが不可欠だと考えています。それを実現しなければNC10の活動自体が十分に機能しない可能性もあるという危機意識を持っています。現在は、こうした「開発と品質保証の融合」を重要なテーマとして、重点的に取り組んでいるところです。
また、逆の視点として、製品開発を担うスタッフにも三次元測定機に関する理解が求められるようになっており、実際に測定業務を担うケースも増えてきました。そのため、講習会への参加を促すなどして、開発部門側のスキル向上にも努めていきます。こうした相互理解と協力体制を築きながら、より高い品質の製品づくりを目指しています。
製品採用のきっかけ

O-INSPECTを導入したきっかけは何でしょうか?
新製品開発を進める中で、従来の接触式測定だけでは対応しきれないケースも増えており、現場からは非接触測定機の導入を求める声が上がっていました。
NITTANでは、これまでも歯車製造の工程において三次元測定機を使用しており、測定精度には一定の満足を得ていました。しかし一方で、操作性や取り扱いのしやすさといった面に課題を感じており、とくに開発部門のスタッフが自ら扱うには負担が大きいという声もありました。
そうした背景のもと、開発部門のスタッフでも扱いやすく、現場での対応力が高い測定機を検討した結果、NITTANではマルチセンサ式測定機「ZEISS O-INSPECT」を導入することを決定しました。
導入から日が浅い段階ではありますが、現在非接触式測定機として「ZEISS O-INSPECT」を活用しつつ、従来の接触式三次元測定機と併用することで測定精度のさらなる向上を目指すといった新たな取り組みにも着手しています。
計測機器、東京精密に期待すること

東京精密の計測機器に対する期待、ご要望はありますか。
現場で使用する測定機器において、もっとも重要なファクターは測定精度であることはいうまでもありません。しかし今後を見据えると、単に精度が高いだけでなく、製品に接触させずに測定できることが、さらに重要な要素になってくると感じています。
実際に「測定針を製品に当てることすら避けたい」といったお客さまからのご要望をいただくこともあり、そうしたニーズは今後さらに増えていくと想定されます。そういった意味で、今後は「非接触かつ高精度な測定機」がキーワードになってくるのではないでしょうか。
また、当社が扱う開発案件の中には重量のある製品も多く、粗さ測定の際には製品を測定機まで移動させるだけでも一苦労です。測定位置や角度の調整といった支店の確保も難しい中で、「いかにして測定物に針を当てるか」ではなく、「いかにして測定物を安全に測定環境へ持ち込むか」という課題にも直面しています。
接触式の測定機では、針が突出しているため、重量物をセットする際には細心の注意が求められます。特に重量がある場合、作業中に誤って針に接触して破損させたり、作業者がけがをするリスクも否定できません。やはり作業現場においては、安全性が最優先です。だからこそ、安全性や設置のしやすさにも配慮された提案をいただけると大変ありがたいと感じています。

加えて、私たちが重視しているのは測定作業の属人性をなくすことです。いくら優れた測定機であっても、測定結果が測定者の知識や経験に左右されるようでは、開発の精度にばらつきが生じてしまいます。
量産品の検査であれば、品質や工程能力を確認するのが主な目的ですが、開発段階では「その寸法が製品性能にどれだけ影響を与えるか」という視点で測定が行われます。そのため、わずかな誤差が判断ミスにつながる可能性もあるのです。たとえその時は「問題なし」と判断した寸法が、のちの工程で性能に影響を及ぼしていたというケースも、実際に起こり得ます。
だからこそ、誰が測定しても同じ精度で、正確に測れる環境づくりが重要です。技術や知識、経験に関係なく、誰でも扱える仕組みが整えば、開発現場へのフィードバックもよりスピーディかつ正確になり、製品の品質向上にもつながると考えています。

株式会社NITTAN
先行開発部
戦略商品グループ
戦略商品開発係 係長
加藤 衛 様

株式会社NITTAN
先行開発部
戦略商品グループ
戦略商品開発係
佐藤 涼二 様

株式会社NITTAN
品質保証部
品質保証強化グループ
主任
岸木 優 様

株式会社NITTAN
品質保証部
品質管理第3グループ
品質管理2係
川口 享士 様
株式会社NITTAN
1924年、前身となる恩加島鉄工所を創立。1934年、日本初のエンジンバルブ量産化開始。1948年、日鍛バルブ製造株式会社を設立。1961年、社名を日鍛バルブ株式会社に変更。2022年、社名を株式会社NITTANに変更。国内外の生産拠点を通じて世界に自動車、二輪車、船舶用エンジンバルブを供給し続けるとともに、エンジンバルブの生産で培った高度な技術力で新製品の開発・拡販を推し進めている。
※2024年10月時点の記事です。